EVERYTHING IS

想起特訓。忘れかけたことを思い出すのだ。

無意識

 同じ言葉を使わないようにしたい。観察しながら見ている。誰かを見ている。君を見ている。君が見ている。見られているし、見ている。君は見られていることを知っている。知っているから笑っている。知っているから見せつける。君はとても楽しそうにキスをしている。嫉妬の炎を燃やさせようとする君の努力は叶うよ。
 うごめく脚の指先が軟体動物のように見える。うねうねと動き一本一本が独立し何かを志向している。
「無害なだけの友達なんていらない」
 無害なだけならいてもいなくても同じだろうか。ただ、有害なだけよりはましだろうと思った。間違えや失敗することが怖い、距離感が怖い。勝手に怖い。怖がって身体がそう反応していると客観的に認識するのが嫌だ。身体が強ばっている。目線が意図的に下に行く。相手をとても意識して無視する。意識していないふりをする。今行っている行為よりも意識が相手に向けられる。
 どうでもよくて興味が無い。なぜ、興味が無いのだろう。それについて知っている情報が元々少なく、知ろうとする動機が無い。知るための労力がかなりかかる。人に興味が無い。その人を知って何の意味があるのだろう。相手を知りたいと思うのはなぜだろう? 知って何を満たすんだろう。 その人間の知る度合いが%で見えている。すべての情報を手に入れると100%になる。しかし、しかしだ。自分さえ知れていない。彼女のことをまだ3%しか知らない。そう考えると穴埋め問題みたいにすべての枠を情報で埋めたいと思う。
「……人を殺した」
「流れていく血が、失われていくものを現わしていた。物質的だったが、もっと実は精神的なものだった」
「流れ出ていくのは意味でもあった」
 私は君を発見したけれど、君は私のことに気づいていない。視線の非対称性に途方もない喜びを発見した。私だけが見てる。君を見てる。
 気づいてる。
 君はほんとは気づいている。君が気づいていることに私は気づいていない。君は偶然を装って視線を交わす。
 私と君が一つの世界にいることを実感する。
 地図に行き先は書いていないから、目配せする。
 私が走ると君が走る。
 

 おんぼろの階段は下れば下るほどぼろぼろに崩れていく。堕ちていく階段を見ながら私も自由落下する。着地する先は決まっているだろうか。

「最初から決まっていることに喜びを見いだせる」

「それって素晴らしいことだ」
「予測可能なすべて知っていることに感動する」

 知らないことを発見する。

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