EVERYTHING IS

想起特訓。忘れかけたことを思い出すのだ。

皮肉

「駄目なんだ……と不意に思って、それからもう駄目だった。一度囚われてしまったらもう出てくることはできない。私がいかに駄目なのか、周りをどれだけ不幸にしているのか……。灰色の雨が降ってくる。とぷんと絶望の海の中に全身を浸して漂っているような……そういう気分が身体を覆って悲しみが枕を濡らす……。なにもできない私なんかは死んだ方がましなような気がする」
「おまえは真面目すぎる。絶望に喜びでも見いだしてんのか? 迷惑はかけたっていいし、周りが優しくしてくれたら受け取ればいい。優しくしてくれるってことは、おまえが優しくさせたってことだ。周りが助けてくれるってことは、おまえが助けられるよう周りを動かしたってことだ。おまえのおかげで、周りの人々は優しくできて人助けもできる。優越感や上機嫌に浸って最高な気分だろう。おまえは特に、本気でありがとうと言う嘘のつけない人間だから、なおさらだ」
 少女の顔をしている、君は一人だったり、寂しかったりする。傷ついた顔をして、風に髪が靡き、その痛みを振り切るように顔を上げると空は青く、日射しは眩しく河面の水面はきらめいている。車が通る音だけが通りすぎて、人の気配だけが襲ってくる。記憶の残響が場所の記憶に残ってる。フラッシュバックする幾つもの世界が君を一人にはさせてくれない。立ち上がり思い切り叫びたい気持ちを飲み込んで一度頭を大きく振ると君は走り出す。
「あたし、昨日幽体離脱した……」
「え、マジ?」
「夜の街を上から俯瞰して見てる感じで、気になる場所には近づけるみたいな」


「相手の言葉をちゃんと読み取るってテレパシーみたいなもんじゃないか」
「なんとなくで勝手にわかったような気になってる気もするよね」
「全部お世辞で本気で皮肉だよ」
「わからなくていいと思っていればいいよ」
「僕はそういうの完璧に分からないと気が済まないから全部聞くよ」
「……それはうざい」

 

地面から人が生えてくる現象が起こり始めてから一週間が経った。
一週間もたつとだいたいわかってきて、生えてくるのは忘れ去られた感情どもだ。俺の知り合いの過去の記憶だとか、未精算で未解決の問題だけれど、本人だけが忘れている大事な思い出をピンポイントで抱えた存在が地面からいきなり生えてくる。解決するまで消えないし、2メートル以内をキープするしで俺だけに声が聞こえるわ、うるさいわで、感触もちゃんと感じるのに、俺だけにしか見えないしもう嫌。それで問題解決すると、本人の中でもその問題が解決するのか、俺の周りのやつらが精神的に成長しだしてうざい。成長するってどういうことだよいったい。昔の俺はまだ生えてこない。

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