EVERYTHING IS

想起特訓。忘れかけたことを思い出すのだ。

始まり

 自分の中の熱意とか気持ちとか……それがいつ始まったのかは曖昧で覚えていない。

幻の月でも見ているみたいに気持ちの向こうで雪解け水の冷たさを考えている。

まとまっていいことを言いたい。気分だけが先走ってどこにも届かない――確信だけがある。分断されるからそこに連続性は無く、個別に生き残った文字列がただ繋がらないと嘆いている。

 勘違いで意味を見いだされるときもあるけどたいてい誤解のまま終わる。

そんなつもりじゃなかった……。

自分の思考

 今月はもう半分を過ぎてしまったが、思考をテーマに生きていこう。
 自分の考えというものに常日頃から憧れている。
 自分独自の見方や独特の見方、その人ならではも文章というものだ。
 それはどうすれば生まれるのだろう。
 一つの問いに対して自分のいままでのすべてで答える。
 そういうことなんだろうか。
 考えを言葉にするときに取りこぼした大量の欠片が
 とても重要なものに思えてなにも伝えられてる気がしない。
 邪魔な文章をそぎ落としてソリッドに伝えるものだけ伝えるのも、
 実務的でいいかもだ。

伝わらないから

 断片的な情報から君の伝えたいことを推し量ろうとする。君は全部を教えてくれなくて、わかるはずだって言う。僕が君とは違うせいか、僕には全然わからなくて、伝わらなくて君を悲しませる。
 君の行きたいところがどこかわからない。
 君には僕がなぜわからないかがわからない。
 僕は君のことがまだわからない。

 

 新緑の葉の影に隠れて光から逃げている。

利己主義のゆくすえ

 自分のことしか考えていない。利己的でわがままな奴だ。君は。君は君の欲望が叶うことだけを夢みて、誰かのために何かをするなんて考えもしないし。誰かのために行動する奴を――不合理で自然じゃない嘘くさい奴と決めつける。
 上っ面で理解して理解した気になることで見切りをつけると、君は相手を見下げて勝ち誇る。合理的に利己主義に効率的にうまく生き抜いてやるぜと息巻く。ある程度はうまくいく。
 そのうち君はなにが好きでなんでこんなことをやっているのかがわからなくなる。貫き続ければ何かに変わると祈っていたけれど、いつのまにか周りに誰もいない。君は孤独は素晴らしいと豪語するが、本当はさびしい。
 なぜ、ひとりになってしまうのだろう。自分のことばかり考えているからだろうか。相手のことに興味はない。君が興味があるのはいつも自分で、自分のことばかりだ。
 誰かのために何かをすることに抵抗があるのはなぜだろう。
 誰かのために何かをすることで自分の時間が奪われている。自分が消費されていると君は感じる。相手に恩を売りつけているようで気持ちが悪い。だから俺は君のためにはなにもしていないし自分のために君を助けるんだと理屈づける。
 思いのほかそれは気持ちが良かった。
 快楽主義は君の信条にも一致したから君は利己的に利他的行動をとる。
 

ひとりで震えてろ

 脱走したい気分だった。きっと誰にも理解出来ない。

 これは自分だけの特別な感情だって信じたかった。
 さっきまでの走馬燈みたいな幻覚――世界の終わりの幻視みたいな、ビルの屋上から墜落する人々、津波にのみ込まれた街の海へと飛び込むとするりと海と一体化し消えていく。
 終わる前に終わらせるんだ。脱出したけれど、決着はついていないじゃだめだ。このままのうのうと生きていけるけど……、もしかしたら悲惨な結末が待っているかもしれないけれど、向き合わないといけない。
 抽象的な夜が散文詩のビートを刻んだら。
 身体に綿でも詰め込んで、中身があるように見せかけろ。
 虚勢で十分だ。想いだけで十分だ。

「I CAN'T EVERYTHING」

 自信を持ってなにもできないと叫ぶべきだ。
「I CAN'T EVERYTHING」
 諦めたくないから、信じたくないから怒ってる。
 自分にとって不都合な真実はいつだって認めたくないよな。
「わかるよ……」
 わかられたくないってことが、よくわかる。
 人を死に至らしめる虐殺の文法があるなら、人を強制的に生きながらえさせる生の文法があるかもしれない。
 伝わらないことに意味を見いだすなんて、自己満足この上ないね。
「独りよがりで、フラフープを回していて、いつの間にやら餓死してるみたいな」
 赤いフラフープが回転していて、その円の中には誰も入れない。
「君に届かない」
 届くっていう幻想と、死にたいんだけどっていう緩慢な退屈さが、壊したくて壊れたくて、殺したくて殺されたくて、生きたくて死にたくて。アンチノミー
 矛盾が螺旋のように渦巻いて、身も蓋もない犯罪行為に手をそめたい。
 たらればでできている未来が、過去が、経験しえなかった希望が、今を否定するよりよい未来が、今ではない輝かしい過去が、すべてが今ではないから。
 脳内にある自分だけのキャンバス。
 書き直してはまた、やり直しはできないってことに気づいている。
 どうしたって一回きり、この瞬間のことを忘れないでいたいと願えたならば、
 ここにいるよと証明できる。
 簡単な自己証明。存在の自己承認。他者承認。
 君が信じた私を私は信じる。
 
 ひとりになるとは思っていなかったから、不意をつかれてよろけた。悲しむまもなく、時間は同じ速度で過ぎ去っていくから。風に押されて、前に進むしかなかった。タイムラプスで撮った早回しみたいに、自分の生活が早送りされていく。実感の伴わない自分を後ろから、僕が覗いているみたいだ。

 

 別に変わりたいわけじゃなかった。ただ、ひとりは嫌だった。

 

 あこがれることはいつでもできて、かなしむことだって、
 いつだってできた。
 たいていのことはいつだってできる。
「いざって時にとっておいてある」

 いざって時はいつまでもこない。
 できなくなるまでは、失うまでは、気づかない。

shape of word

 もう自由にはなれないから、生きている理由も消えてしまって、すべて終わらせようとしたのに、そう簡単に終われなくって言葉が響いた。
 無邪気さの在処や、サイレンの鳴る音、懐かしい土管や公園、嫌な気分やロッカーの中身やランドセルの色彩。鉄棒を駆け上がろうとしていた時や、化け物のいる、中身が見えない池。綺麗なチューリップを引き抜いて、外履きで体育館の中に入って砂を落としながら叫び声をあげる。震えるような感情を歌にしたなら歌えるだろうか、伝わらない想いを伝える方法を、手を伸ばしながら考える。足下だけを見て、顔が見れない。世界が一変するような風が吹いて、胎内帰りのような水をくぐって、新しい自分に変われたらと、また傷つける。なにもわかっていないんだ。何かがわかった気がしたのに、ころころ変わる自分の中に、何かとても大切なものがみつかれば、世界が割れて解放できそうな気がする。気がするっていう希望を追いかけて、夢のあるフィクションやノンフィクションに憧れを見いだしている。
 風で君の髪が靡いた。伸ばした手に届きそうになった。すぐそばにあった。大切なものはいつも……。知らなかった感情が身体を震わせる。