地道な道のり
ありがちな意味、ありきたりな言葉、「だいじょうぶ」
「あ、たいしたことないですから。はい、大丈夫です。きっと……きっと」
「不意にあらゆるものがどうでもよくなることがある。いったい何をやってるんだい……いったい。意味と意義を見失って、生身の身体だけが残っている。身体の感覚に正直に快楽の方へ、心地よい方へ。思考より先に拳が空を切る音がして、力の入った部分と緩んだ部分が意識される。曖昧な雲をたぐりよせるみたいにして、イメージと身体を擦り合わせ理想の動きを再現/再演する」
うまくできた、その動きが二度と出来ない。
うまく書けた。その感触が二度と現れない。
この唯一性にして、一回性が切実さを伝えてくれればいい。
この瞬間の、今のなにかはここにしか無い。
「今の全てを叩き込めばいいのに」
好きだったバンド(つばき)のボーカルが知らないうちに死んでた。
ちょうど一年経っていた。
ヘッドフォン越しに聞こえてくる前と全く同じ音源が、なぜだか前より響いてくる。