EVERYTHING IS

想起特訓。忘れかけたことを思い出すのだ。

寝て起きると世界が終わっていることだって無いとは言い切れない

頭の中に映像を思い浮かべてそれを打ち出していく実験をします。

 

 路上を行き交う人々と車の群れ。その中をスーツ姿の男は歩いていく。耳にはAIRPODSが垂れ下がっていて、男は何かを話している。男は赤信号の交差点で立ち止まる。男だと見づらいのでスーツと呼称します。スーツは東京の町並みを不意に見上げる。ビル群に囲まれた自分と赤信号に立ち止まる無数の人々、それぞれが全く違う理由や目的を持ってここにいるのだ、そう考えるとスーツは愉快な気分になる。
 と――その刹那上空を巨大な影が覆う。超巨大な戦艦である。スーツは口を大きく開き耳に刺さったAIRPODSを引き抜き路上に捨てる。人々は立ちすくみ同じように空を見上げている。空から墜落してくるように、戦艦は機首をこちらに向けていた。轟音が轟きビル群のガラスが一斉に割れ降り注ぐ。戦艦の正面がパカリと口を開けるように開き主砲がギチギチと組み立てられていく。どこからからスーツにはラッパの音が聞こえる、アポカリプス/ヨハネの黙示録をスーツは思い出す。

七人の天使ラッパ(士気を上げる音)を吹く(8章6節-11章19節)

  1. 第一のラッパ:地上の三分の一、木々の三分の一、すべての青草が焼ける (8:6-7)
  2. 第二のラッパ:海の三分の一が血になり、海の生物の三分の一が死ぬ (8:8-9)
  3. 第三のラッパ:にがよもぎという星が落ちて、川の三分の一が苦くなり、人が死ぬ (8:10-11)
  4. 第四のラッパ:太陽、月、星の三分の一が暗くなる(8:12-13)
  5. 第五のラッパ:いなごが額に神の刻印がない人を5ヶ月苦しめる(9:1-12)
  6. 第六のラッパ:四人の天使が人間の三分の一を殺した。生き残った人間は相変わらず悪霊、金、銀、銅、石の偶像を拝んだ(9:13-21)
    1. 天使に渡された小さな巻物を食べた。腹には苦いが、口には甘い(10:1-11)
    2. 二人の証人が殺されるが生き返る(11:1-14)
  7. 第七のラッパ:この世の国はわれらの主、メシアのものとなった。天の神殿が開かれ、契約の箱が見える。(11:15-19)

 

 世界は終りの幕開けを告げる。主砲から充填された高密度の光エネルギーが放たれた。

 スーツが光に包まれ霧散する――そのときである。

 
 刹那の瞬間に思い描いた


 俺は毎日毎日をどれだけ必死に生きてきただろうか。今日死ぬかのように生きよ、自分がもし余命一年だったら……後悔しない人生を生きただろうか。……今死ぬと分かっていれば、もっと好きなことをしたのに。許せん。しかし、俺は死んでしまうのだ……。この瞬間に自由にできるのは心だけである。光が俺を包み込むまでの永遠に引き延ばされた思考だ……。それはもはや俺にとっての物語をすべて語り尽くすことのできるまでに延ばされた走馬燈のようなものだ。

 いったい……何をしたかったのだろう。なぜ、これまで生きてきたのだろう。なぜこうやって死んでいくのだろう。理不尽だ。何を自分で選んできただろう。……なぜ俺はこんなにも後悔しているのか。後悔するということは悔いが残っているということだ。何を悔やんでいるのだ……死ぬというのに。……もし生き返ることができたら、悔いの無い人生を送りたい。今悔いていることを全てやり直すのだ。

あなたが空しく生きた今日は、昨日死んでいった者が、あれほど生きたいと願った明日

  ある言葉や映像に感染してその時だけは頑張れた。その言葉に負けないように頑張った。しかし、すぐに忘れた。すぐに今日を、いまを大事にしなくなった。不可逆な時間の中で最も大事な時間を無駄にしてしまった。それがこの終わりだ。
 

「10年間抱いてきた希望が潰えた。精一杯やってきたことがぜんぶ無駄になった。10年前に戻ることもできない。この先、生きていてなんの意味があるのかわからなくなった」

「10年後にはきっと、せめて10年でいいからもどってやり直したいと思っているのだろう。

今やり直せよ。未来を。

10年後か、20年後か、50年後からもどってきたんだよ今」

 こういう言葉も読んだ。しかし、俺は次の瞬間死んでしまう。やり直せない。やり直すとはそもそもなんなんだ。後悔しないように生きるしかない。しかし、俺は次の瞬間死ぬ。となると、俺はこの瞬間過去を書き換え素晴らしい人生だったと思って死ぬほかない。素晴らしい、素晴らしい人生だった。ありがとう。
 だめだ。思い込めない。自己暗示が遠い。光が迫ってくる。十年前に戻れたらもっと必死に勉強する誠実に嘘つかないし、いろんな人助ける。俺が四十代になったらまた同じこと言ってるんだろうか。願いが叶わないから後悔するのか。なんで後悔してるんだよ。後悔も全部受け止めて俺っていう人間そのものを俺自身が肯定してその上で全力で魂を燃焼したい。が、光が近づいてくる。
 死にたくない。しかし、死は誰も知らない。そこに飛び込むことさえも冒険なんではないか。もっといろんなことをすればよかった。たくさん冒険して、いろんなことやってみて失敗して、多くの人としゃべり、知らないことを覚え、またさらに知らないことがあふれ出て、知らない言葉や感情がが自分の中から出てきては笑うのだ。溢れるほどの喜びと感情、浮き沈みの深い悲しみでさえ素晴らしい。感情の乱高下に俺はついていけない。結論には間に合わない。自分の人生のラスボスや全クリもまだだっていうのに。終わりだ、終わり。もう時間が無い。常に時間は無い。今しか無い。次の瞬間には何が起こるかわからない。黙示録が起こるかもしれない。隕石かもしれない。交通事故かもしれない。火事かもしれない。病気かもしれない。俺には金なんて必要無い。生きる時間をくれ!

 そしてスーツは光になった。東京は壊滅した。日本も壊滅した。そして、世界も終わり。