EVERYTHING IS

想起特訓。忘れかけたことを思い出すのだ。

感情教育

 いつもいつも思うことがある。全能感、高揚感、情熱、美しさ、すべてが美しく見えたあの瞬間がどうすればやってくるのだろうか。感情が摩耗していく。自分の感情さえよくわからなくなって、鈍感になっていく。ひどい言葉を言われても傷つかないし、何も感じない。反発もせず、言うことを聞くだけの機械になっていく。そうなると便利に扱える道具だ。空気に逆らわず、相手を傷つけるような言葉も言わない。
 無害な存在になる。「君は無害だから好きだよ」
 誰も傷つけず、他の人の感情も響かず、心は動かず、涙の前で表情を変えない。困っている誰かがいたとして、どうでもいい。人のことを考えて行動しているわけではない。そうした方が社会的にいいから、いいと思われるから行動している。自己中心的な考えに囚われている。反射的に感情が飛び出し行動するようなことができなくなった。行動の前にまず、自分の利益に反しないか、自分に傷がつかないかどうかを気にする。もし、傷ついたとしても「傷ついていないこんなもの」と自分を誤魔化すので気づかない。本当は深い傷がついているのかもしれない。目に見えない傷はいろんな人についているのかもしれない。
 欠落した感情を取り戻すためには、些細なことで傷ついて、些細なことで死ぬほど喜ぶ必要があるのか。素直に感じたままに反応する。たとえ、外に見えなかったとしても、心の中でその感情が起こっていることを認識する。
 感情について習ったことがない。
 心臓のドキドキを高めていったら、世界の見え方は変わっていく。ドキドキが消えて、平凡な世界になる。心拍数を上げるために全速力で走ったら少しは気持ちよかったけれど、桜が舞い散るこの瞬間が、花火が打ち上がるこの瞬間が、一瞬の至高が一瞬で遠くなっていく。忘れて忘れてどこにいったのかもわからない。その気持ちを再現することさえできずに、再現しようと夢見ている。
 手に入れてしまったら嬉しくなくなる。ただ高揚したい。喜びを味わっていたい。
 自分が知らないことを生み出したい。自分が知っていることを書きたいわけじゃない。知らないのにすごい。果てしない。空の向こうのような。機械都市の中心で爆発が起こる。地雷を踏み砕いて、爆発の向こうへ行く。麻薬中毒の母を持つ黒人男性が自分のライムでのし上がっていく。音と物語が絡み合って、過去と未来が行き来する。4つうちのビートが身体を震わせる。生起する物語の中で、意味を感じる。

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